5. 技術横断テーマ:統合と連携の新段階へ

 2025年を通じて明確になったことは、もはや単一技術の優劣の判断で導入するのではなく、各技術を「どのように結びつけるか」が競争力を左右する時代に入ったという事実です。AI、クラウド、セキュリティ、自動化――それぞれの領域が成熟するにつれ、企業は個別最適ではなく、統合的に動く“デジタルの神経系”を求め始めています。この潮流こそが、2026年に本格的に立ち上がる「統合と連携のDX」だと考えられます。

■ 断片化の終焉:クラウドの“つながり方”が価値を決める

 かつてのクラウド導入は、「便利だから使う」ものでした。メールはExchange、ファイルはSharePoint、チャットはTeams――業務ごとにツールが増え、結果として「情報が点在する」問題が顕在化しました。2024〜2025年、この問題に対する明確な解決策として浮上したのが「Microsoft 365の統合な設計思想」です。

 Purviewがデータを横断的に分類・監査し、Defenderが脅威を一元的に可視化し、Entra IDがユーザーとアクセスを一括制御する。さらに、Power Automateがそれらをつなぎ、情報が部門を越えて安全に流れる。この仕組みが「点のクラウド」から「面のクラウド」へ、そして今「統合されたクラウドプラットフォーム」へと進化しています。

 この変化は単なる機能統合ではなく、「業務とデータを同じ文脈で扱う」という設計思想として、たとえば、見積書を提出した瞬間に、そのファイルは自動でDLPラベルが付与され、監査ログが記録され、Teamsで共有通知が送られ、承認プロセスがPower Automateで走る――すべてが一つの文脈で連動します。もはや“ツールを使う”のではなく、“ツール同士が会話する”世界です。

■ 統制と自動化の融合:ITガバナンスが動的に変化する時代へ

 今後のIT運用において最も注目されるのは、「静的なルール」から「動的な統制」への転換が考えられます。従来、セキュリティや業務ルールは「設定」や「マニュアル」で維持してきましたが、急速な環境変化に対応できないという課題が顕在化しました。これに対し、Microsoft PurviewやIntune、Defenderなどの統合基盤では、“条件付き統制”という新しい概念が定着しつつあります。

たとえば、

① 社外アクセスが発生した場合はDLPポリシーを自動強化する
② Teams会議で外部参加者が含まれた場合は録画を自動暗号化する
③ AIが高リスクの操作パターンを検出した際は一時的に権限を制限する
――といったように、統制がリアルタイムで自律的に反応する世界です。

 この「動的統制」は、AIと自動化の融合によって初めて実現しました。つまり、“ルールを守らせる”のではなく、“仕組みが守る”。企業のITガバナンスは、監視中心から自動的に適応するシステム統制へと進化していきます。

■ AIを軸にしたデータ連携:知識が企業資産として再循環する

 AIの進化によって、データ連携の意味も変わりました。これまでのデータ統合は、システム間で値を渡す“連携”でしたが、今後は「意味を共有する知識連携」へと変わります。Azure OpenAIやMicrosoft 365 Copilotは、SharePointやTeams、OneDriveに蓄積された文書・議事録・報告書を参照し、質問に対して企業内の“知識”として回答できるようになっています。つまり、データが単に「保存される場所」ではなく、「AIが学習・参照する知識空間」に進化したのです。

 これにより、企業内の情報流通は「入力 → 保管 → 参照」という直線型から、「生成 → 共有 →再活用」という循環型モデルに変わりつつあります。AIは単なるツールではなく、情報循環を成立させる触媒です。企業内で「知識を生み、回し、守る」という三位一体モデルが今後は完成することになるでしょう。

■ API統合の再評価:安全な“接続設計”が競争力を左右する

 一方で、すべてをMicrosoft環境内で完結できる企業は多くありません。基幹業務システム、EC、物流、CRM、会計など、外部クラウドとの接続は依然として不可欠です。ここで鍵を握るのが「安全なAPI統合設計」です。2023年までは“外部API接続の禁止または自粛”がでしたが、2024年以降は「Azure経由なら可」という転換も進みました。Azure API ManagementやLogic Appsを経由することで、外部連携を可視化・監査可能な経路として扱えるようになったためです。これにより、「閉じた安全」と「開いた効率」の両立が可能になりました。

 2026年以降には、API接続が「リスク」ではなく「価値創出の接点」として再定義されます。社外のAIエンジンやデータベース、IoTデバイスを、統制下で接続・運用できる企業こそが次の競争優位を得るでしょう。

■ 統合と連携が生む“運用インテリジェンス”という新概念

 統合が進むほど、企業運用は「データで見える」だけでなく、「データで判断できる」ようになります。Purviewの監査ログ、Defenderの検知データ、Power Automateの実行履歴、Copilotの利用傾向――これらを横断分析することで、IT部門は「システムの健康状態」をリアルタイムに把握できます。

 この領域は「運用インテリジェンス」と呼ばれ、2026年以降の情シス戦略の中核となることでしょう。AIが各種ログを解析し、リスク予兆や業務ボトルネックを自動で提示する。つまり、“運用のデータを使って運用を賢くする”という循環が完成します。この段階に到達すれば、IT部門は単なる維持管理部門ではなく、経営を支える“組織の知能”となるのです。

■ 統合が生む次の競争軸

 クラウド、AI、自動化、セキュリティ――それぞれの進化は一巡した考えられます。これからの焦点は「技術をどう組み合わせ、どう安全に運用できるか」。今後の競争軸は、「導入の速さ」ではなく、「統合の深さ」と考えています。企業に必要なのは、万能なツールではなく、“データが守られ、業務が回り、知識が生まれ続ける構造”です。それを支えるのは、クラウドを理解し、AIを扱い、業務を設計できる統合型ITパートナー。まさに、情シス部門が企業の中核に位置づけられる時代が到来します。

 統合と連携――それは、ITを“管理コスト”から“価値の源泉”へ変える最後のステップです。2026年、企業の成長を支えるのは、個別の技術ではなく、技術をつなぐ知恵です。

結論:DXで勝ち抜く企業IT戦略

――「技術を使いこなす企業」から「技術で経営を再設計する企業」へ

 2026年のIT市場は、単なるテクノロジーの進化ではなく、「経営構造の再設計」の年となると考えます。クラウドもAIも自動化も、もはや“導入すれば成果が出る”段階ではありません。これからは、それらをどう統合し、どう運用し、どう企業文化として定着させるかが成果を分けます。つまり、勝ち抜く企業とは、技術を導入する企業ではなく、「技術を仕組みに変えられる企業」です。

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