2. メガトレンド ①:守るDX ― 統制と信頼の再構築
コロナ禍を背景に多くの企業で導入されたクラウド化ですが、「クラウドは便利だが、情報がどこにあるか分からない」――2023年以降、企業が最も強く意識するようになったのが、この“可視性の欠如”ではないでしょうか。ファイル共有、リモートワーク、Teams連携といった利便性の裏で、情報管理の責任が急速に複雑になり、単なるクラウド導入だけでは済まなくなりました。求められているのは「便利に使えて、しかも誰がいつ何をしたかが説明できる」――つまり、“説明可能なセキュリティ”です。取引先や親会社からの監査要求が強まったこともありますが、情報漏えい事件や取引データの改ざんが社会的に問題化する中で、企業は“守る”ことを経営課題として再定義し始めています。
この流れの中心にあるのが、SharePoint × Purview × DLP の三位一体構成です。SharePointは「情報を一元的に保管し、権限でアクセスを制御する」基盤、Purviewは「どの情報が、誰に、どこへ流れたかを記録・監査する」統制ツール、そしてDLP(Data Loss Prevention)は「機密情報が外に出ないように防ぐ」防御層です。この組み合わせは、従来のNASやオンプレサーバーでは不可能だった“情報の追跡性と統制性”をクラウド上で実現しました。
かつてはセキュリティ対策として「UTMを導入して終わり」という防御型中心でしたが、今の企業は「業務プロセスの中でセキュリティをどう維持するか」を問われています。つまり、“守るDX”とは技術導入ではなく、「業務の中に統制を溶け込ませる設計思想」なのです。たとえば、契約書の承認フローにPower Automateを組み込み、署名完了時点で自動的にDLP監査タグを付与する。SharePointのアクセス権限がPurviewと連動し、削除・閲覧・共有の記録をリアルタイムで可視化する。これらの機能は「監査のための業務」ではなく、「業務を進めるための監査」へと性格を変えつつあります。
士業や法務系企業では、この構造転換が顕著です。弁護士事務所や税理士法人では、機密文書を扱う以上、クラウド利用に慎重な姿勢が長らく続いてきました。しかし、Microsoft 365の国内利用環境が整ったことで、Purviewによるデータ分類・アクセス監査が「法的証跡」として認められるようになったことで、一気に導入検討が進みました。守秘義務と利便性の両立――それを可能にしたのが、まさにこの統制設計の仕組みです。
また、製造・建設業界でも、守るDXは“現場知の保全”という文脈で広がっています。設計図面、工程記録、施工写真などは、これまで社内NASやUSBで管理されてきました。しかし、災害時やリモート対応ではアクセスできず、情報が分断される問題がありました。SharePointによるクラウド保管とPurviewの監査ログ化を進めることで、「いつでもどこでも安全に見られる仕組み」が整いつつあります。さらに、DLPポリシーにより「社外メール添付」「Teams外部共有」などを自動的に検知・遮断する体制を構築する企業も増えています。これは、IT部門がセキュリティを“設定”する時代から、“運用して保証する”時代に変わったことを意味していると考えています。
2026年以降は、この「守るDX」はさらに進化し、「統制の自動化」という新たな段階に入ると思われ、Purviewによる機密ラベルの自動付与、Copilotによるリスク検出レポートの生成、Intuneによる端末準拠率監視など、AIと自動化が統制領域にも浸透します。人が監視するのではなく、仕組みがリスクを先読みし、対応を促す。つまり、セキュリティが“負担”から“支援者”に変わる年です。
この流れを正しく活かすために企業が取るべき方向は明確です。
第一に、「技術の導入」ではなく「統制設計の再定義」に注力すること。
第二に、監査・法務・情シスの連携を強化し、“ルールを運用に落とす”設計力を持つこと。
第三に、情報統制の成果を“経営の信頼性”として可視化することです。
「守るDX」は単なるセキュリティの話ではなく、企業が社会的信頼をどう維持し、継続的に成長できるかという根幹の課題と直結しています。クラウドの利便性と統制を両立させ、AIがその管理を支援する――この新しい構造が2026年の企業ITの“信頼のかたち”を決めることになるでしょう。