– こんな方におすすめ –
統制とスピードを両立させた次の投資判断を検討中の経営者・事業責任者の方。監査証跡や外部連携リスクを守るITガバナンス・セキュリティ統括責任者の方。AIガバナンスなど運用標準を策定されるCIO・CTOなど情報システム責任者の方。
– この記事の目的と範囲 –
ITを単なるツール導入ではなく、「経営構造の設計要素」として再定義することで、DXの次の段階として、「導入」から「設計」への転換を経営視点で整理を行なっています。企業がどのように「止まらない経営」「自立的運用」「信頼される統制」を実現すべきか提示を行なっています。
1. 2025年の総括と2026年への布石
2025年のIT市場は、単なる技術革新の年ではなく、「運用と統制の高度化」が本格的に始まった年だったのではないでしょうか。企業はクラウド移行やAI導入といった“導入期”を終え、次の課題である「どう安全に、どう止めずに、どう活かすか」という実装・運用フェーズに突入しています。特に、クラウドの利便性とガバナンスの両立やAIの本格活用とリスクの制御、そして業務プロセスの自動化と内部統制の整合性をどう取るかが、あらゆる業界で共通のテーマとなりました。
2025年にかけて顕著だったのは、「構築から運用設計へ」というシフトです。システム導入よりも、導入後の運用ルール、情報の可視化、証跡管理といった“守りのDX”が強く求められ、これは、単にセキュリティ意識の高まりだけでなく、業務プロセスそのものを継続的に改善し、企業の体制としてデジタル化を内製化する表れでもあるのではないかと感じています。
一方で、人材不足が慢性化する中、「属人化からの脱却」、「自動で回る仕組み」への関心も飛躍的に高まりました。その中でもMicrosoft365 Power AutomateやPower Appsによる自動化、Formsによる申請フローの標準化など、これまでエクセルとメールで回していた日常業務を“システムとして再設計する”動きがあらゆる業種で広がっています。自動化はもはや一部の先進企業だけの取り組みではなく、全国の中小企業にも浸透し始めていました。
さらに、2024年以降のトピックとして注目すべきは「AIの実務化」です。これまでChatGPTのような外部APIは“情報漏えいリスク”の観点から多くの企業で利用禁止または自粛とされていました。しかし2024年、Microsoftが提供するAzure OpenAI Service(gpt-4)の登場により、閉域環境で安全にAIを利用できる道が開かれました。これが“AI解禁”の分水嶺となったのではないかと思いますが、2025年には士業・自治体・製造業など、守秘性の高い領域でもAIを業務の中に組み込む実証が進行され、AIは“試す技術”から“働く仕組み”へと急速に位置づけを変えていることも事実です。
このように、企業ITの傾向には「守るDX」「回すDX」「考えるDX」という三つの潮流が明確に現れています。
第一に「守るDX」は、情報統制・監査対応・法令遵守の分野で急成長。SharePoint × Purview × DLPの組み合わせによる、監査証跡対策や情報漏洩対策への動き。
第二に「回すDX」は、Power Platformを軸とした自動化と標準化による省力化への動き。
第三に「考えるDX」は、Azure OpenAIやCopilotを中心とした生成AIの実務統合への動き。
これらはそれぞれ独立したテーマのように見えますが、実際には相互に密接に関連しています。守る仕組みがなければAIは安全に活用できず、AIがなければ業務効率化の限界を超えられない。そして、それらを支えるのは「統制された運用基盤」です。
2026年以降は、これら三つの流れが一本の線に結びつき、「統制された自動化」「知的省力化」「監査対応型DX」という新しい概念として現れてくる年になるでしょう。企業に求められるのは、“技術を導入する力”ではなく、“技術を仕組みに変える力”です。つまり、IT戦略は技術選定から「運用設計・管理設計・監査設計」へと主戦場を移します。
この潮流の中で情シス部門の役割も今後大きく変わります。かつては社内のシステム保守担当だった情シスは、今や企業の情報統制・業務デザインの要です。クラウド・AI・セキュリティの三位一体を理解し、業務要件を踏まえて最適化する“運用デザイナー”としての役割が不可欠になります。2026年は、まさに「情シスが経営を支える年」であり、技術導入から仕組み創造への転換点となるでしょう